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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)1637号 判決

控訴人 副島一臣

右訴訟代理人弁護士 杉原正芳

被控訴人 東京興産株式会社

右代表者清算人 春田正義

主文

原判決を取消す。

本件を東京地方裁判所に差戻す。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文と同旨の判決

二  被控訴人

控訴棄却の判決

第二当事者双方の主張並びに証拠関係

次のとおり附加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人の主張

原判決の事実摘示中に控訴人がした「(本案前の申立の理由に対する答弁)」として「被告の清算手続が昭和四四年九月九日結了したことは認める。」旨記載されている(原判決四枚目裏四行目から五行目まで)が、控訴人は、本訴において右清算開始の原因となった被控訴人の解散決議の存在自体を争っているのであるから、右のような答弁をするはずがなく、被控訴人の本案前の主張に対しては「被控訴人につき昭和四四年九月九日清算結了を原因とする登記が経由されている事実は認めるが、被控訴人の清算が結了した事実は否認する。」旨述べたにすぎないのである。

二  被控訴人の認否

控訴人の右主張は争う。

理由

一  本件記録に編綴された被控訴人の閉鎖登記簿謄本によれば、被控訴人については、すでに昭和四四年九月一〇日付をもって「昭和四四年九月九日清算結了」の登記が経由されていることが認められ、また原審の第七回口頭弁論調書には、被控訴人の本案前の主張に対する控訴人の答弁として「被告会社は昭和四四年九月九日清算を結了したことを認める。」との記載があることが記録上明らかである。

然しながら、本件訴が右清算開始の原因となった被控訴人の解散決議の存否を訴訟物とするものであることは、本件訴状の記載によって明らかなのであるから、被控訴人については、前記清算結了登記の存在にかかわらず、本訴の継続する限りにおいて、その当事者能力を認めなければならないのは当然であるし、また当事者能力の有無は判決裁判所の職権調査事項に属するのであって、これについての自白は、当該裁判所を拘束するものではないのであるから、前記の登記及び自白の存在により、直ちに被控訴人が権利無能力者であって、本訴における当事者能力を欠くものと判断することが許されないのは当然である。

従って、前記の登記及び自白の存在によって被控訴人の当事者能力を否定し、控訴人の本件訴を却下した原判決は、法律の解釈、適用を誤った違法があり、不当といわざるをえない。

二  よって、民事訴訟法第三八六条、第三八八条に従い原判決を取消し、本件を東京地方裁判所に差戻すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川義夫 裁判官 寺澤光子 原島克己)

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